薀蓄
人、三度、陳麻飯を食すとき、舌に天使が舞い降りる。
人、初めて、陳麻飯を平らげるとき
鮮烈たる香辛料の力は食した者の体内にて目覚め、
凡庸たる食味に飽いた感性に炎を灯す。
人、再び、陳麻飯を制すとき
配合された香辛料の複雑な迷宮に迷い込み
その絶妙なる味覚の競演に驚愕を覚える。
そして、三度、陳麻飯に出会うとき
人は食欲を促す四川山椒の奥に宿る旨みを堪能し、
やがて恋に落ちるがごとく、味覚の虜となる。
幸福なる発汗とともに、
皆々様の舌上に天使の降臨せんことを願う。
山椒に含まれる「サンショオール」は脳下垂体を刺激し、全身のホルモン分泌を活性化する。
特に心臓に作用 し血行を促進する「アドレナリン」を分泌する。
このとき、心臓とともに全身臓器も活発に働くため、消費カロリーも増加。
いわゆる基礎代謝が向上するという効果が期待できる。
基礎代謝によるカロリーの消費が増えると、体脂肪減に役立つとされる。
一方、唐辛子には「カプサイシン」という辛味成分が含まれる。
これにも脳への刺激を通じた「アドレナリン」分泌の促進効果が見受けられる。
特に赤唐辛子は代謝を高めて身体を温める。さらに免疫力の向上にも繋がる。
客員教授 沢松 光伸
「2004年 四川大学百年際特別記念講演録」より
四川は「天の与え賜えし国」という意から「天府之国」と呼ばれています。
四川料理はこの地に代々伝わる料理の総称ですが、この料理の特徴を説明する際、中国では「麻」「辣」の二文字を使って表すと言います。
「麻」とは「痺れる」という意味を含み、風味豊かな四川山椒を使った料理の味覚を示します。
「辣」とは「辛い」の意味で、唐辛子を使った料理の味覚を示します。
すなわち四川料理とは「麻辣」そのものであり、同じ中国の方でも、四川以外の人々にはなかなか馴染まないとされるアウトローな味覚なのです。
それがなぜ四川において定着したのか。
年間を通じて湿度が異様に高い四川では、食に「麻辣」を取り入れることで新陳代謝を促し関節炎やリューマチを予防するとして、民間に広まったといわれています。
まさに天府之国が賜った、天府之香辛料。それが山椒と唐辛子なのです。
四川料理研究家 本松 彦信
「月間四川料理平成17年1月号より抜粋」